シネスコトリミングとアナモルフィック撮影の違い
映画らしい横長フォーマット「2.39:1」を得る代表的な方法は大きく二つあります。
- シネスコトリミング(Cinemascope Crop)
3:2 や 16:9 で撮影した映像の上下を切って 2.39:1 に整形するポストプロダクション手法。センサーの高さ方向の画素を削る代わりに、機材は一般的な球面レンズで済みます。 - アナモルフィックレンズ
レンズ内部で横方向だけを「圧縮(squeeze)」して撮像面に収め、後処理で横に「引き伸ばす(desqueeze)」ことで 2.39:1 を得る方式。上下を捨てずセンサー全面を使えるうえ、oval-bokeh や水平フレアなど独特のルックを生みます。
比較の前提
センサー | 公称最高画素数 | 実サイズ (W×H) |
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フルサイズ | 約 6100 万 (9 504 × 6 336) | 36 mm × 24 mm |
APS-C | 約 4020 万 (7 728 × 5 152) | 23.5 mm × 15.7 mm |
フルサイズはシネスコトリム、APS-C は 1.60× アナモルフィック(3:2 → 2.39:1 になる代表的倍率)を使用。
主要スペックを 1 枚にまとめると
指標 | フルサイズ + シネスコトリム | APS-C + 1.60× アナモルフィック |
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使用できるセンサー面積 | 約 542 mm²(36 mm × (36 ÷ 2.39)) | 約 369 mm²(23.5 mm × 15.7 mm) |
使用できるセンサー縦幅 | 15.06 mm(36 ÷ 2.39) | 15.7 mm(APS-C 全高) |
使用できる画素数 | 約 3780 万画素(6100 万 × 15.06 ÷ 24) | 約 4020 万画素(APS-C 全画素) |
同一 F 値レンズのボケ量 | APS-C とほぼ同等(縦寸が近い) | フルサイズ・トリムとほぼ同等(縦寸が近い) |
※アナモルフィックはデスクイーズ後の**実効幅 37.6 mm(23.5 mm × 1.60)**でわずかに広角になります。
数値から読み解くメリット・デメリット
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解像度とノイズ耐性
- シネスコトリム
3780 万画素あれば 4K 以上の納品では十分。実効面積 542 mm² と APS-C を上回るため、高 ISO でわずかに有利です。 - アナモルフィック
縦 5152 px をフル活用できるため、被写体の垂直方向ディテールが豊富。面積は APS-C そのものなのでノイズ耐性は APS-C 相当ですが、最新センサーなら実用上は問題ありません。
- シネスコトリム
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被写界深度とボケ
両方式とも縦寸法が 15 mm 前後でほぼ一致。同一 F 値・同一縦画角ならボケ量は大差なしですが、アナモルフィックは oval-bokeh やストリークフレアが発生しやすく質感が大きく変わります。 -
画角
- シネスコトリム:幅 36 mm をそのまま使う広さ。
- アナモルフィック:実効幅 37.6 mm と +1.6 mm 広い。ワイド志向なら強み。
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撮影フローとコスト
- トリムは球面レンズで完結し、編集で上下をカットするだけ。導入コストが低く、モニターや EVF も通常表示で OK。
- アナモルフィックはレンズそのものが高価・大型。撮影時はスクイーズ表示対応モニターか LUT が必要。ただし撮って出しの段階で映画らしい描写が得られる。
まとめ ― どちらを選ぶ?
こんな人におすすめ | 理由 |
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フルサイズ+トリム | 既存レンズ資産を活かしつつ 2.39:1 が欲しい。編集ワークフローを軽くしたい。ノイズ耐性を少しでも稼ぎたい。 |
APS-C+アナモ | フレアや oval-bokeh を含め“映画っぽい”絵づくりが最優先。横方向をより広く使いたい。アナモの運用に慣れている。 |
両者は縦解像感と被写界深度がほぼ同等という点で画作りのベースラインは近いです。決め手は「ワークフローの簡便さ」か「描写の個性」か。あなたの機材環境と作品テイストに合わせて選択したい。